二つの宝石 『真面目』な脱出準備

「ジュリア!」

コハクは降りると同時に白いコートを着た金髪の女性に走り寄る。

スパイクは降りた場所で動かずに立っている。

「大きくなったわね、コハク…」

飛びついたコハクを受け止めながら、優しく言うジュリア(彼女)からは、埃っぽい匂いがした。

「生きてた…、生きてまた会えた…」

背中に回した腕に、ギュッと力を入れる。

ちゃんと感触がある。 夢ではない。

「迎えに来た」

後ろから追いかけて来ていたスパイクがジュリアに手を差し伸べる。

ジュリアはそれをしっかり握り締め、コハクはジュリアから離れ、一足先にエステバリスに戻る。

コハクはアサルトピットに戻ると、手を差し出し、二人がその手の平の上に乗ると、アサルトピットまで運ぶ。

「ジュリアは何所に隠れてたの?」

「施設の残骸で上手く隠れた地下室を使っているわ
 殺された人の墓も作ってあるの。 …見る?」

パイロットシートの右側にいるジュリアが左側にいるスパイクに向けて尋ねる。

「ああ。 …グレンに挨拶してくか」

「ん。 アキト、行くよ」

『わ、わかった』

状況がイマイチ呑み込めていない画面の前の貴方の為に、コハクさんの昔話をここに書いておきましょうか。



…はい! 読んでもらえましたね(爆) いえ、読みましたよね?

では、そういう事で話を進めます。

 



瓦礫に埋もれた建物の跡のような所まで案内されるままに進んだ。

少し外れの瓦礫の開けた場所には石が積んである。

「あれがグレンの墓か?」

スパイクがジュリアに尋ねると頷いたので、アキトに警戒を任せて三人で墓前に立つ。

手向ける花も酒もないが、黙祷を奉げてる。

残念ではあるが非常時なので手短に終わらせると、ジュリアがコハクの両肩を持って真正面に見据えてくる。

真剣な眼差しに答えるように、真剣に聞く体勢に入るコハク。

「実は、下の地下室は研究所で、ある物が保管されてるわ」

「ある物?」

「ええ、宇宙戦艦よ」

「戦艦? 軍の船?」

「いいえ。 ナデシコと同系の船…
 相転移エンジンとディストーションフィールドを持つ船よ」

「待て、ナデシコは火星のデータを元にして地球で造った物だ
 確かに火星で造れなくもないが、そんな計画は会長派も社長派も検討していないぞ?」

スパイクが横から言うのに、ジュリアは頷く。

「でも、あの船は一から造ったものではないわ
 船の形のまま、損傷だけを残して放棄されていたものよ」

「戦艦を? 大体、それが本当ならその船って…」

「コハクの言う通り、あの船は私達が造った物ではない…
 より正確に言うと、私達の時代・・・・・で造った物ではない、ね」

「…それってどういう?」

「コハク。 そんな事はどうだっていいんだ
 今はここから戻る事を考えろ」

「そう。 スパイクの言う通りだと思うわ
 修復は他の生き残りの人と合同でしてあるの
 そして、これが大きなポイントなのだけれど、ワンマンコントロールシステムが装備されているの」

「ワンマンコントロール?
 …MCが必要なのね?」

複雑な表情でジュリアが頷く。

「乗るわ。 ダメコンとかの乗員は?」

「全てバッタで賄っているわ」

「…バッタで!?
 もう、この際何だっていいわ!
 それで、他の生き残りの人たちって?」

「下にイネス・フレサンジュって博士がいるの
 彼女にこういう時の対応を頼んであるから、スパイクはエステバリスでもう一機の人と彼女を連れて船に戻って
 コハクには船に慣れてもらうわ
 …いい?」

「勿論だよ。 一緒に帰ろう」

スパイクは頷きを返している。

アキトに大まかな事情を説明して、イネスを乗せて帰還してもらう。

スパイクは、機体になれていないのでアキトに頼んだのだ。

コハクはジュリアと共に地下に下りて、その戦艦と対面する。

「搭載されていたAIの名前がダッシュ<br>  その元になるAIがいたのでしょうけど、詳細はダッシュに探らせてもらえなかったわ<br>  それでも、この船の名前はわかったわ<br>  機動戦艦ユーチャリス」

細長い白亜の船体。

後部には上下に構造物があり、そこから左右に翼が出ている。

その構造物の所々に取って付けたようなターレット式の砲台が見える。

何となく、後付けした物なんだろうなと思いながら、ブリッジに移動を始める。




「アキト! その女の人は誰なの!?」

「だぁ、それを今から説明してもらうんだろうが!!」

帰還するなりブリッジに上がったアキトはユリカに泣きそうな声を上げられてまいる。

「そうね。 色々と説明しましょう♪<br>  先ずは私の自己紹介と目的ね<br>  私はイネス・フレサンジュ。 ここには火星脱出について代表として話し合いに来たわ」

「他にも生き残りの方がいるんですね?」

メグミが素直に喜んでいる。

「喜んでいられるのは今の内だけよ<br>  この船単独での火星圏脱出は不可能だもの」

「お言葉だがレディ。 我々はこれまでの戦闘で全て敵を撃破している」

ゴートが一言言うのに対して、イネスはキツメの反論を始める。

「その辺りも説明しておくわね<br>  貴方達は木星蜥蜴と呼ばれる敵について何を知っていると言うの?<br>  それと同様に、ナデシコと言う船を何所まで知っているの?」

「スペックなら全部出せますよ」

ルリが言うと、イネスは苦笑を返す。

「そうね。 限界はスペックに現れるけれど、地球からの航海で不具合が一つもないとは言わせないわ<br>  それに、スペックなんて所詮は最高値。 本当の限界は実戦でしか見えてこない<br>  その限界を貴方達は大気中で経験しているの?<br>  第一、貴方達は相手が強化もせず戦力を投入してくると思っているのかしら?」

「でも、実際に敵を倒してる!」

「テンカワ君、だったかしら?<br>  私達は今、敵の陣地の真っ只中にいるの<br>  そこから脱出するのに戦力としてナデシコ単独では役不足なのは、設計者である私が一番よく知っているわ<br>  知っていて? 一度グラビティー・ブラストを撃つと、チャージに時間がかかると」

「それくらい、知ってます」

ルリが呟くと、ユリカがちょっと驚いている。

艦の性能を知らないようだ。 艦長としてはかなりマズイ。

「ならわかるわね?  宇宙のように連射できないグラビティー・ブラストで包囲された時にどう切り抜けるつもり?」

視線がユリカに集まる。

「…一点突破でなるべく被害が出ないように一気に脱出します」

「正解だけれど、決定的に戦力差があるのよ?<br>  脱出のシュミレートの成功率はどの程度?」

「え? あのぉ…、やってません」

「話にならないわね
 貴女が艦長でしょう?」

「はい。 私が艦長です!」

自身満々にユリカが言うと、イネスとプロスがため息をつく。

「バカ」

ルリの呟きに、微妙に聞こえていたミナトは同意しそうになった。

「コハク、だったかしら?
 彼女にはこちらで準備した戦艦に乗ってもらいました
 向こうはワンマンオペレーションで増設のユニットとは互換性がないので、私達はこの船に乗るしかない
 だけど、艦長が交代してくれない限り私達としては命を預けられないわ
 それからフクベ提督。 貴方にも命は預けられない」

「…ふむ。 そうだろうな」

やけにスンナリと納得するフクベに対して、ユリカは困惑気味だ。

「え? どうしてですかぁ?」

「…よく今まで沈まなかったわね、この船」

呆れて言うイネスに、ユリカはまだ困惑している。

「むぅ…、艦長、ここは話しをスムーズにする為に休職してはもらえませんかな?」

プロスは言いながら有給の余りをユリカに見せている。

そして、なにやら相談した挙句に有給を取り、暫らく代理艦長を置く事になった。




 

「ほぉ、艦首に被せる形の居住空間ですか…」

「そう。 私達はRユニットと呼んでいるわ
 ここに地球行き希望者の97%と、食料の備蓄が入ってるわ
 で、残りの3%は技術者だから作業の手伝いくらい出来るでしょうし、船の方の部屋に入れさせていただきます
 ただし、フラビティー・ブラストは収束したものしか撃てなくなる
 これは、形状的には仕方ない事ね
 どちらかと言えば…」

「ああ、今は何所で取り付けるかをお聞きしたい
 細かいお話しはまた今度、と言う事で」

すっかりイネスの説明好きがブリッジクルー全員に痛感され、プロスが抑え役を担うようだ。

「そうね。 Rユニットを取り付ける場所だけれど、コハクさんに乗ってもらう戦艦のドックよ
 その戦艦、ユーチャリスと言うのだけれど、これがまた…」

「ああ、その戦艦は実際に見てからのお楽しみと言う事で、装着時の動きについてのミーティングをしておきましょう
 あぁ、その前にドックの出入り口は何所にあるんでしょうかね?」

プロスの存在を皆であり難く感じつつ、話しが進んでいる。




 

アキトは再びエステバリスでユートピアコロニー外円部を目指していた。

イネスによって左遷(?)されたユリカ、フクベを先程イネスと合流した地点に運んでいるのだ。

当然二人もアサルトピットに詰め込みたくないので、一人ずつ左右の手に乗せている。

コミュニケで通じているので、常時会話可能な状態だ。

『ねぇアキト、私って艦長失格なのかなぁ?』

『テンカワ君、私は君に謝っておかないといけない…』

同時に始まった二人の言葉に、アキトは迷うが、ユリカに一言謝ってフクベの話しを聞くことにする。

「…で、何を謝るんスか?」

『うむ。 …君は気付いているのかどうか私は知らない
 だが、私のしでかした事を知っているのかどうかを聞いておく必要があるのだ…』

「しでかした事って…
 何の話しッスか?」

『どうやら知らないようだな
 …第一次火星大戦の始まりの時だ
 一機のチューリップが火星に向けて接近してきた。 私は当時指揮官をしていた…』

アキトは一瞬思考が真っ白になった。

おかげで機体のコントロールを失う。

転倒と乗せている二人を取り落とす事はどうにか免れたが、それでもアキトは思考の深みにはまっていく。

そして、奥底に抱えてきた恨み辛みが爆発する。

「アンタが…、アンタがコロニーを…
 アンタが余計な事をしなければ!」

『スト〜ップ
 殺して終りじゃ話しにならないわ』

突然ウィンドウが開き、コハクが現れる。

「わかってるよ! でも、コイツが!!」

『後で皆で私刑リンチにすればいい
 個人での私刑じゃ恨みが残るだけ
 わかっていても悔しいのはわかるけど、駄目』

『…二人ともどうしたの?
 何でそんな事言ってるの?』

『艦長、何でそこにいるのか知らないけど、説明しま…』

『説明しましょう』

唐突にイネスがウィンドウを開いてコハクの台詞を奪う。

『『「イネスさん…」』』

『地球では英雄として祭られ担がれのフクベ提督だけれど、火星側からすれば迷惑な人物なの
 提督が戦艦をぶつけて軌道をずらして落したチューリップが何所に落ちたか…
 そこには何があったのか…
 そこから見えるアレが全ての証明になるわ』

アキトが機体のカメラで反対側のコロニー外円に突き刺さっているチューリップを見る。

フクベ、ユリカもそれを目にする。

『地球では火星での汚点を隠して、火星撤退の汚点を隠すためのスケープゴートにされた…
 死人に口なしとはよく言ったものね
 …こんな所でしょう?』

『ああ。 私も辞退したかったが担がれてしまったよ
 卑怯な物でな、自分の娘と孫を盾に取られては何も言い出せんかった…』

『我々は、貴方が自らの所業を公開して、正式に裁かれる事を望んでいます
 ユーチャリスで、ゆっくり謝罪文を書く事をお奨めするわ』

『そうしよう…』

イネスの言葉に、なにも言えなくなったユリカとアキト。

『イネスさん、こっちに提督を乗せるんですか?』

『ええ。 ついでにもう一人も乗せておいて
 送り次第、テンカワ君はこっちに戻ってきてもらうわ』

『えぇ〜! アキトと一緒じゃないんですか?』

『…もう一人って、やっぱり艦長ですか?』

『そうよ。 有給だそうだから、明けるまでそっちで養生させてあげて
 そろそろ出航してちょうだい』

『了解。 一番からゲート解放
 ユーチャリス、微速前進…
 管制塔の人、後はよろしくお願いしますね』

山の裾が割れ、開く。

そこからユーチャリスが出て来た。

『ハンガーの位置を送るから、二人を置いてって』

コハクのウィンドウが簡単な図に変わり、ハンガー入り口を示すのに従ってハンガーに入る。

グダグダと五月蝿いユリカと、ハンガー内を見回すフクベを降ろすと、アキトは外に出る。

いつの間にか、フクベに対する恨み辛みがナリを潜めているのに気付かないアキトだった。




 

ユリカの抜けたナデシコは、ユーチャリスと入れ替わりに隠しドックに入る。

既に準備してあったRユニットにディストーションブレードを入れる。

元秘書とは思えない程の腕前で綺麗にディストーションブレードを入れたミナトには惜しみない拍手が送られたりした。

そんな中で、アオイ・ジュンは緊張と悲しみで胃が痛くなっていた。

突然のユリカの下艦。

それに伴う艦長代理の任命。

今は火星の生き残りの人たちと、整備班のドッキング作業で指示を出す事はないが、いざ戦闘になれば責任者はジュンなのだ。

全ての責任がその双肩にずっしりと、重くのし掛かる。

これからは取れないであろう休憩時間を取り、食堂で昼食を取る。

ホウメイが気を利かせ、胃薬をくれたのには思わず感動した。

まぁ、思わず胃薬をあげたくなる位に厳しそうな表情をしていた訳で、艦長としてはちょっとよろしくないのだが…

席に着いてA定食を食べていると、通信が入る。

『艦長代理。 ユーチャリスからの暗号通信での報告です
 『戦力差は歴然。 敵勢力の集中前に突破すべく作戦を考案すべし
   リラックスして事に当たるようにね。 頑張って』って伝言もあります
 あと、ゴートさんが十分後に作戦会議を始めるそうです』

「うん。 わかったよメグミさん
 それで、ユーチャリスの伝言って誰からの伝言?」

『ユーチャリス艦長って書いてありましたけど、艦長ってどっちなんですか?』

「…さぁ
 とにかくありがとう。」

ユーチャリスの艦長はワンマンシップらしくコハクだ。

報告に纏めた状態での通信だから、ユリカが出した物でも艦長からの物となるかもしれないと、どうにかしてユリカからの言葉だと思いたいジュンであった。




コハクは、先程受信した作戦要綱から目を離す。

内容を数回反芻して、大体のシュミレーションを脳内で立てる。

成功するかどうかがユーチャリスにかかっているのだから、プレッシャーがかかってくる。

「さて、どうしよう?」

“どうしようもこうしようも…
 こちらが囮になってナデシコを逃がすのがベターだと結論は出ました”

ため息混じりに言うと、ダッシュがウィンドウを開いて言う。

基本は同じなのだが、性格面でオモイカネとはギャップがあり、コハクはあまり馴染めないのだ。

「そうなんだけど、どうやって囮になろうかと思ってるのよ」

ジュンがシュミレーターで優秀な成績を収めているのは知っているのだが、実戦での経験は副長としてだけだ。

励ましの言葉を送ってみたものの、それで変わる物とはおもえない。

ナデシコの動きが少し心配だ。

“ステレス機能解除後、相転移エンジンの最高効率を発揮出来る高度での機動戦闘がベターだと、結論は出ました
 細部については臨機応変にとも…”

「融通利かないなぁ…
 不安なだけだよ」

“全システム正常に稼動中。 戦闘については何ら問題無し”

「…もうちょっと人間っぽい揺らぎを身に付けてくれたら文句ないわね」

“それは貴女が私のマスターに相応しければ改善されます”

「そう? なら、頑張ってみようかな…」
“努力は無意味ですよ…”

IFSの最適化を始めたコハクは、ダッシュの出した小さなウィンドウには気付かなかった。

そうしてコハクが準備を整え終わると、作戦開始の時刻までの20分を使って休息するのだった…


――あとがき――

【幻魔狼】 今回のゲストはアマノ・ヒカルさんです

【ヒカル】 ど〜も〜〜

【幻魔狼】 いやぁ、元気ですねぇ…

【ヒカル】 だってぇ、シリアスモード一直線の話しの中じゃ出て来れないんだもん

【幻魔狼】 まぁ、確かに…

【ヒカル】 本編と全然関係ないココくらいでしか出て来れないし

【幻魔狼】 まったくもって…

【ヒカル】 ナデシコっぽくないよねぇ?

【幻魔狼】 グサグサ!!

【ヒカル】 ま、いっかぁ
        じゃ、次回予告しま〜っす
        突如現れるキョアック星人!
        効かない攻撃にキレるヤマダ!
        アキトとの熱血ダブルゲキガンフレアは通用するのか!?
        次回、熱血『熱闘』をみんなで見よう!

【幻魔狼】 あ、無論ブラフですのでご了承あれ

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