二つの宝石 火星『突入』

「いいかげん疲れたよ…」

『文句言ってないで動けってんだよ!
 死にてぇのか、お前は!!』

あまりの敵の多さに辟易して呟いた途端にリョーコが叱責してきた。

「わ、わかってるってば!」

『でも、良くもまぁヤマ…』『俺の名前はダイゴ…』『うっせぇ! 黙って出来ねぇのか、お前等!』

コハクが何か言おうとするのをヤマダが遮り、更にリョーコが遮る。

『だって、黙ってたら気が滅入りそうなんだもの』

『なっはっは! そんな数の差、気合と根性で!!』

コハクが余裕綽々の表情で言うのを、ヤマダが肩で息をしつつも返す。

盛大なため息を、コハクとリョーコがして、同時に言う。

『『アンタ(あなた)が一番心配なんだよ!(ですよ)』』

まったくもってその通りだね。

『あれ? アキト、何時の間にこっちに来たの?』

コハクに言われて気付いたが、何時の間にか担当宙域から離れてコハク・イズミペアの担当宙域に来ていた。

ちなみにペアは…
アキト・ヤマダ
リョーコ・ヒカル
コハク・イズミ  となっている

 

「ごめん! おいガイ! 担当宙域離れちゃってるぞ!!」

『なぁ〜に、それくらい問題ねぇよ!!』

『テンカワペア担当宙域から機動兵器が進行中。 とっても不味いです』

ルリがサラリととんでもない事を言う。

『イズミさん、私ちょっと行ってきますね?』

『銅像、どうぞぅ… ククク』

「おいガイ! …ったく、イズミさん、ガイのサポートお願いします」

『一人でも大丈夫でしょうけど…、わかったわ』

おや? イズミさん久しぶりのマジモード。

「すいません!」

アキトはコハクの後を追う。

以前、サツキミドリ2号内でコハクを追いかけた時よりも近づけた気がする。

『あれ、ペア変更? なら、暫らくサポートよろしく〜』

コハクはそう言ってナデシコに接近中の敵を落していく。

ラピッドライフルのマズルフラッシュ(射撃)、対象に命中、爆発(撃墜)

敵機のレーダーの死角、回避行動パターン、行動パターン等をほぼ把握し、無駄弾なく撃墜していく。

それがIFS強化体質によるものか、それともコハク自身の才能なのか…
現状で知る者はいない。

しかし、後ろにいるアキトにしてみれば、追いついたと思ったそばから格の差を見せ付けられる形となった。

(何時になったら追いつけるんだろう?)

敵をフィールドごと体当たりして破壊しつつ考える。

追いつく事を考えている時点で並ぶ事すら難しくなると自覚できない事自体が、コハクに並べもしない要因の一つであるのを知らずに…

ナデシコ周囲の敵機動兵器の数が減った。

各ペアの防衛ラインも段々と外に外にと動き始めている。

これでやっとナデシコがグラビティー・ブラストを撃てる条件が整った。

『グラビティー・ブラスト発射します。
 射線上には近付かないで下さいね』

メグミがにこやかに言った20秒後、レーダーで射線上の敵の表示が消えた。

『増援が来ない内に火星に突入します。
 エステバリス隊は帰還してください』

エステバリス隊は帰還し、ナデシコはテラフォーミングで作られた火星大気圏内へと降下していく。




「ヤマダさん、持ち場離れたから罰として皆に飲み物奢ること〜」

「何でオレだけ!? テンカワも持ち場離れただろうが!!」

コハク(取り巻きとしてイズミとヒカルとリョーコとアキト)がヤマダを取り囲んでいる。

「アキトはちゃんとミス分を取り返してたし、反省もしてる。
 ヤマダさんはそんなのナシに取り敢えず目の前の敵だけ相手にしてて…」

「それは、なんだ、その……」

口篭もるヤマダに、コハクはニッコリ微笑む。

「わかってるんだったら話は早いですよね?」

「っくそぅ! 奢ればいいんだろ! 奢れば!!」

「それ以前に反省してくださいよ…」

ため息を吐きつつコハクが言う。

それを無視してヤマダは飲み物を買っている。

「ヤマダ、オレはその段の右端のヤツな」

「あ、私はリョーコの隣のやつ〜」

「私は……、ヒカルと同じの」

リョーコ、ヒカル、イズミ(ギャグが思いつかず不服らしい)がヤマダに注文していく。

「あ、俺はリョーコちゃんの下のヤツ」

「私もそれで…」

結局ただたんに奢らせるような形になってしまったが、まぁ仕方ないだろう。

投げやりに飲み物を購入していく。

「くそぅ…。 ほらよ!」

ヤマダが飲み物を渡そうとした瞬間だった…

床が傾いて、壁になった。

要するに艦が、艦首を真下に向けたのだ。

下と表現できるほどに火星の重力の影響を受けている船内の重力コントロールを無視しての唐突な行動だっただけに、いたる所で物が落ちていく…

「のわぁあぁ!!?!!」

飲み物を抱えていてバランスの取れなかったヤマダも落ちた………。  南無

咄嗟の事ではあるが、アキトは近場の出っ張りを利用して安定した足場を確保。

リョーコ、ヒカルはアキトにしがみ付いて難を逃れ、イズミは自力で足場を確保していた。

コハクはコハクで近場に掴まる物が無く、傾く床の上を滑りながら斜めに走り、10m位落下してからコンテナに着地。

猫も驚きのしなやかさを見せたが、見ている余裕のある者はいなかったりもする。

「が、ガイ…
 くっそぉ、何考えてんだよ、ユリカァァ〜〜〜!!」

アキトの叫びに、階段の手すりに掴まって難を逃れていたセイヤの目がいく。

「な、なんて羨ましいぃ〜!!
 おのれテンカワ〜〜」

怒りのあまりに手にもっていたスパナを投げようと手を離した時……

少しの揺れ、両手で持っていればなんて事は無かったのに…

耐え切れずにセイヤもヤマダの後を追う羽目に…、ならなかった。

落ちてきたセイヤの手を、腕を伸ばしてコハクが掴む。

まぁ、捕まえた後でコンテナの側面に顔面から衝突したのはご愛敬……

セイヤを引き摺り上げたコハクはポツリと呟く。

「艦長、何にも考えてなかったんじゃない?」




「ハクション! …ぁう」

「おやおや、風邪ですか? 艦長」

盛大なクシャミをしたユリカにプロスが言う。

「いいえ。 きっとアキトが私の事を自慢してるのよ!
 うんうん!! きっとそうだわ!!」

「……バカ」

「悪口の間違えじゃないんですか?」

ルリがぽつりと言ったのに続いてメグミが嫌味ったらしく言うが、既に上の空で妄想モード突入中のユリカには意味が無い。

「で、何所に向かえばいいの?」

大人の余裕(?)でミナトがそれを断ち切る。

「先ずはネルガルの施設ですね
 あそこは一種のシェルターになってますから」

「成る程。 会社としては残ってる物を回収しときたいのね」

プロスの言葉にミナトが冷ややかに言う。
プロスは苦笑して答える。

「そう言わずに、あそこには山岳地帯に近いし、それなりの備蓄が完備されてますから、生き残ってる人がいる確立が高いんですよ」

「ま、そういう事にしといてあげる
 航路よろしく〜」

「出ました。 どうぞ」

「サンキュ〜、ルリルリ♪」

「え?」

突然「ルリルリ」なるあだ名で呼ばれ、きょとんとした表情に続いて気の抜けた声を出してしまうルリ。 何か言おうとした時に、ブリッジにエステバリスパイロットが入ってきた。

「お願いだから、重力圏内では艦内重力制御をしっかりやってから艦頭を下に向けて下さい」

「ホントだぜ。 俺様なんか下まで一直線に落ちて危うく骨折する所だったぜ??」

コハクが言ったのに続いてヤマダが愚痴る。

怪我しないのはヤマダ位だろう。

他の人間には熱血で怪我を軽減する事など出来ないから…

「あ、忘れてた……」

「私の不注意です。 …一応」

ルリがぽつりと言うが、一応ってなんだ? 一応って?

「まま、怪我人がいなかったようですから大袈裟にしないでおきましょう? ね?」

プロスの説得に応じた訳ではないが、取り敢えずその話は無かった事に。

「で、目的地は何所なんだよ?」

リョーコが投げやりに言う。

確かに火星生まれの人間か、火星に住んでいた事のある人間でない限り、目的地に一喜一憂する事は無いだろう。

「一応、ネルガルの施設に行く事にしたのですが…」

賛否を尋ねるようにプロスがパイロットたちを見る。

ヤマダ、リョーコ、ヒカル、イズミは構わない旨を伝えたが、アキトは少し思案顔。

コハクが手を上げて、発言する。

「プロスさん。 エステ借りていいですか?」

「……エステ、ですか? いや、しかし…」

「スパイクを連れて、あそこに行きたいんです
 スパイクは、目的地を知ってて乗ったんですよね?」

コハクが真正面からプロスを見据える。

「…ええ。 ですが、旧知の友人としての好意だけで貸せるほどの余裕は…」

「あの!」

突然アキトが声を上げる。

「…俺にも、エステを貸して貰えませんか?」

注目が集まり、声が小さくなりつつもアキトが言う。

「ここは敵陣だぞ。 エステを二機も他所へやれん!」

ゴートが珍しく声を上げる。 まぁ、戦闘オブザーバーならするべき仕事か。

「元々は4機だけでここに来るつもりだったんですよね?
 元の機体数に戻るだけじゃないですか
 それとも、リョーコさん達じゃ防衛しきれないって言いたいんですか?」

この言葉に、プロスに向けるリョーコ達の視線が鋭くなる。

「いえいえ、そういうつもりでは……」

焦りつつ返そうとするプロスに、コハクは一歩前に出て言う。

「私達の不在なんてハンデ程度の出来事なんです
 お願いします。 簡単にだけど、弔いはしたいんです」

周りの雰囲気と、真剣な眼差しにプロスが折れかける。

「しかし、我々がヒナギクを使用して調査する段階で危険があった場合、ナデシコの防衛が……」

「行きたまえ」

今まで、殆ど何も言わなかったフクベ提督がそう言った。

「ゴート君。 お飾りとは言え、指揮権は私にあるのだったね?」

「…ええ、その通りです」

相変わらず要所要所で意見の出る人だ。

「二人が一緒に行動すれば敵に遭遇した時の帰還率は上がるだろう
 二人で行くならば、故郷を見るのを邪魔するもんじゃない
 若い者なら特に、な……」

感慨深げなフクベの横顔にコハクとアキトは礼を言い、すぐさまハンガーへと向かう。

「さて、ワシ等は目的地に向かおうか」




『こっちであってるの?』

『ナビに入れてあんだろ。 俺に聞くな』

前を行く砲戦フレーム(バッテリー等の問題から、砲戦フレームが選ばれた)から聞こえてくる通信に少し不安になるアキト。

コハクとスパイクを乗せた砲戦フレームは、山岳地帯に向かう一本道を進んでいる。

岩場と言った感じの左右の風景に似合って、無舗装の踏み固めただけの道。

「目的地には着くんだろ?」

『まぁね。 少し時間貰うけど…』

「お互い様だろ。 こっちも付き合ってもらうんだし」

『…コハク、左で何か動かなかったか?』

突然スパイクが声を上げる。

『ええ。 10時方向に熱反応があるし、サイズも人間大
 様子を伺った方がいいの?』

『大丈夫だろう、もし敵ならもう撃って来てても可笑しくない
 武装が薄いか敵じゃないか、だな…』

「人が生きてるってこと!?」

『さぁ? 本人に聞いてみるしかないわよ
 …お〜い、そこの岩に隠れてる人〜、もし人だったら出てきてくださ〜い』

コハクが外部スピーカーを入れて呼びかける。

熱源反応が動いた。

通常のカメラだけで視認できる位置に移動してきた。

腰まで伸びる金髪を揺らしながら悠然と。 ちゃんと脚も付いている。

砂除けだろう白いコートを着ていて体型は大まかにしか分からないが、細そう。

サングラスを外せば整った顔が拝めるだろう。

『……ジュリア』

コハクが消えてしまいそうな声で言う。

『やっぱり、その声はコハクね?』

金髪美女(たぶん)が優しい声音で銀色(正しくは未塗装)のエステバリスを見上げる。

跪いたエステバリスからコハクとスパイクが降りる。

『ジュリア!』


――あとがき――

【幻魔狼】今回のゲストはスバル・リョーコさんです

【リョーコ】オッス。 って、こんなトコに出てく来れるとは思わなかったぜ

【幻魔狼】まぁ、女性キャラは一通り出る予定だからねぇ…

【リョーコ】へぇ…、それより、本編じゃオレ達の話しがないぜ?

【幻魔狼】あぁ、時間的に暇があれば作る気だけども、アニメや小説と同じ流れなので割愛するつもりなんだよねぇ〜

【リョーコ】なんでぇ、少しはオリジナリティーを出せってんだよ

【幻魔狼】な、何故ここでダメだしされねばならぬ!?

【リョーコ】そりゃぁ、お前…、アレだよ、アレ

【幻魔狼】…どれ?

【リョーコ】…ぁあ! 細かい事は気にすんじゃねぇ! 男だろ?お前

【幻魔狼】そりゃぁ、女じゃないさね。 漢じゃないけどね…

【リョーコ】あん? 何か言ったか?

【幻魔狼】いやいや、気にしないで次回予告の方をドーゾ

【リョーコ】怪しいなぁ…  ま、いいか
      で、えーと? コホン
      密室で手を取り合うアキトとリョーコ
      重なり合う二人…
      って、オイ!! なんだよ、これは!!?

【幻魔狼】ここでゲストに読ませるのはブラフですから

【リョ―コ】ふざけんじゃねぇよ!!

【幻魔狼】まんざらでもないくせに…

【リョーコ】ぇ……  ぅ、う、うるせぇ!!!

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