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二つの宝石 水色宇宙で『どたばた』

『おら、さっさと開けってんだよ!』

ゲシゲシと閉じたままの扉をエステバリスで蹴りつけるリョーコ。

『リョーコさん、扉を蹴らないでくださいよ』

『こんなもん、叩きゃ動くって』

『動いてないじゃないですか…。 黙って見ててくださいよ』

キャピキャピと話しながら、格納庫へと通じるゲートを開けようとするコハクとリョーコの後ろで、アキトはエステバリスの動かし方を確認しながら待っていた。

暫らくしても開かないゲートを見ながら、ヤマダの我慢が限界に達した。

『うるせぇぞ、女ども! さっさと開けやがれ!』

『あん!? テメエにゃ言われたくねぇってんだよ』

『なにおぅ!! この俺様にサシで勝ってから言えってんだよ!』

『二人とも、無駄に動かないの。 いま開くから』

コハクの宣言通り、ゲートがゆっくりと開いている。
不意にリョーコが口を開いた。

『おい、オマエ』

『なんだ、女』

すごく険悪な雰囲気の中、ゲートが開ききった。

全員動こうとはしなかった。

『競争といこうぜ? どっちが先にエステバリスを回収できるか…』

『やってやろうじゃね〜か。 おい、お前等。 手出しは無用だぜ』

『…はぁ。 怪我しない程度にね』

「俺達はどうしてればいいんだよ?」

『そこでおとなしくレフェリーでもしてろ』

『そうさせてもらうわ。 敵がいたら連絡ちょうだいね』

『っへ。 その時はバッタも倒してからゴールしてやるぜ』

『ふん。 泣いたって助けてやらんからな』

この二人は犬猿の仲なのか?

そんなアキトの疑問を他所に、チキンレースはコハクがスタートを宣言して始まった。

『それじゃ、お休み…』

「え、ちょっと!」

通信を音声オンリーにして、本気で寝ようとしているコハクを呼び止める。

『どうしたの?』

「どうしたのじゃないって! 何時敵が来るのかわからないのに…」

『アキトが気付けば問題ないよ。 お休み…』

「んな無責任な!?」

『だって、私達が今いる位置はナデシコのレーダー有効圏内だよ?
 こういう時は、警戒してないで英気を養うのが得策だって』

因みに、レーダー圏内>重力波ビーム受信可能と言う効果範囲である。

「でも…」

『コハク! 予備機が動いてるぞ!!』

突然リョーコが通信してくる。 鬼気迫る表情だ。

コハクはサウンドオンリーを解除して臨戦体制になる。

『職員?』

『返答が無い! しかも攻撃された!』

『! 直ぐにそっちに行く
 ルリ、リョーコさんの通過ルートの表示よろしく』

レーダーに、新たなマップが加わる。

『行くよ、アキト』

コハクの切り替えが早いのか、アキトの決断が遅いのか…

とにかくコハクを前にして、二機は格納庫へ続く道をつき進む。

大量の物資を、輸送した船ごとに保管するために、いくつかのシャッターが左右に連なっている。

通常は低度ではあるが重力が働いているのだが、電力の途絶で機能していないのか無重力だ。

追いかけるアキトは、コハクからじりじりと離される。

加速の思い切り、障害物の避け方、機体のコントロール。

どれを取ってもアキトが劣るからだ。

歯痒い思いをしながら着いて行くと、一つの格納庫の中で二対二で戦闘していた。

『コイツ等、普通の装備じゃねぇぞ!』

『機体性能で劣る方が燃えるだろうが!』

リョーコが狙われていて、ヤマダは軽くあしらわれている。

予備機は駆けつけて来た二人に気付いたのか、一瞬こちらを見る。

その隙を見逃さず、リョーコが予備機にタックルした。

コハクが天井すれすれを移動して、敵に近付こうとしている。

同じ機体だが、頭、両腕、両肩にバッタを張り付かせた予備機は、その余剰分の重量をものともしない意外な素早さでリョーコ機を振り払うとコハク機に腕を向けた。

その腕に張り付いているバッタが照準を合わせている。

対するコハクは悠然としたもので、浮いていたコンテナをキャッチして投げ付けていた。

投げると同時に反作用で天井に向かって押し返され、そのまま天井を蹴って回避する予備機の前に移動したコハクが、取り出していたイミディエットナイフで頭部に張り付いているバッタを突いた。

続いて両肩、両腕のバッタを切り捨てる。

『そうか! バッタだけ潰せば機体は確保できる!』

『どうでもいいからそろそろくたばりやがれぇ!
 くらえ、ガイ・スゥパァァァ〜〜・ナッパ〜〜!!!』

ヤマダが奇声をあげている(笑)

『…私、帰っていい?』

『あ〜、オレも同感』

「え、助けないの!?」

女の子同士通じる所でもあるのか、どちらからとも無く笑い始めた。

『だって、あんなに大口叩いた割に…。 ねぇ?』

『ホント。 性能差なんてないんだぜ? あのタイマンに』

たしかに、ヤマダが戦っている相手は付いているバッタは頭だけと少ないし、普通の速さだ。

「でも、仲間だろ!?」

『…仲間? 仲間ねぇ〜?』

『自分で援護すればいいじゃない?
 それより、撤収準備しなきゃね』

『だな』

「そんな…」

薄情と言ってしまえばそれまでで、信頼してると言ってもそれまで。

アキトがどうのこうの言っても、何ら意味が無いと言う事だけはわかった。

「仲間じゃないのかよ!」

ただ、理解できるのと受け入れるのは別。

アキトには受け入れられなかった。

これもアニメの見過ぎゆえか?

ラピッドライフルを予備機に向けて撃つ。

『こらぁ! テンカワ!! 手ぇ出すなって言っただろうが!』

「え、でも!?」

『俺様のこの華麗な機体捌きが判らんとは、素人とは悲しいものだな』

…優雅どころか無様に戦闘しているヤマダさんが言えた台詞ではないような気がする。

『うるせぇぞ、モノローグ!! それに、俺の名前はダイゴウジ・ガイだ!!』

モノローグに突っ込まないでください(笑)

「なに言ってるんだよ、ガイ!」

ちなみに、ナデシコ内でヤマダをガイと呼んでいるのはアキトだけだったりする。

『だから、俺様がこんな出来損ないにやられると思うのかって聞いてんだよ!!』

「そんな事ないけど…」

『だったら黙って見てろってんだよ!』

『わかった? アキト』

閉じていたコハクのウィンドウが開いて、優しく嗜めるように言う。

「…そんなんでいいのかよ?」

『仲間なんでしょ?
 互いの技量を正確に把握して、やれる事はやって、やらなくてもいいなら任せる
 それでいいじゃない』

それなら、今回のアキトは何が出来たのか?

『おい、テンカワ。 ちょっと手伝え』

リョーコに呼ばれ、行ってみると、宇宙服を持っていた。

勿論中身は空ではない。 詰まっている。

「リョーコちゃん、コレ…」

『仏様だよ。 慎重に運べよ?
 ヤマダじゃダメだからな…』

(それなら、俺が呼ばれたのって……)

二つの意味で泣き出しそうになりながらも、アキトは自分のやれる事をやる。

リョーコの機体から、二人を引き取る。

リョーコは自分でも二人を引き受けると、少しヤマダの方を見てからコハクに言う。

『おいコハク、これで全部か?』

『後一人。 私がやっとくから、先に行って
 バッテリーもそろそろ心許無いでしょ?』

『おう。 行くぞ、テンカワ』

「あ、うん。」

リョーコの後を着いて行きながら、外に出る。

『あ〜、テンカワ。 悪いが、ちょっと押してくれねぇか?』

「どうしたの?」

『バッテリー切れだ。 もうチョイで充電できるから、そこまで頼む』

「わかった」

結局、アキトが出来たのはそれ位だった。






「俺って、パイロットやってる意味あるのかな…」

展望室の芝の上に寝転んで、アキトはぼやく。

今はリョーコ達の歓迎パーティーで、ここにいる人はいない。

「どうしたんですか? パーティー抜け出して」

ふと声を掛けられ、声のした方を向いて見る。

通信士のメグミがいた。

「ちょっと、ね…」

「…私もちょっと」

二人で少しだけ笑って、それから急に雰囲気が沈み込む。

女性に接するのが苦手なアキトは、何を話していいのかわからない。

「私、思うんです」

隣に腰を下ろしたメグミが、唐突に言う。

「ついさっき、死んだ人を見たって言うのに平気でパーティーがやれるのって、変じゃないかなって
 アキトさんはどう思います?」

向けられた視線にちょっと照れながらも、自分の思いに近い事を知って、少しホッとする。

すると、自然に言葉が出てきた。

「俺も、コハクやリョーコちゃんがいきなり手伝えって言って遺体を渡して来た時は驚いた
 二人とも、当然の事みたいに扱ってるんだ。 なんか違うって思った

 俺は、ナデシコの皆を守りたいからパイロットになった
 でも、できるのは遺体を運ぶ事くらい…」

不意に、メグミが視線をドアの方に移す。

アキトもつられるようにしてドアを見ると、コハクが入って来ていた。

二人に気付いていながらも、コハクは窓に近付く。

そして、窓に片手を添えて、遠くを見るようにして物憂げな表情を見せる。

その視線の先に、サツキミドリ二号があるのは偶然ではないだろう。

メグミもアキトも声を掛けられない。

基本的に白い肌を持つコハクのその表情は、なぜかとても神秘的に見えた。

二、三呟き、十字を切ってから暫らく祈るように手を顔の前で組む。

組んだ手を解くと、その表情は既にいつものコハクだった。

「二人は何してたの?」

ここに来て初めてコハクがアキト達に声を掛けた。

「皆が冷たいって話してたの
 人が死んだのに、パーティーなんてできるのっておかしいと思わない?」

メグミが言うと、コハクは二人の正面に座る。

「人には人なりの死への考えがあっても可笑しくないじゃない?
 目を逸らしたり、悲しみに暮れたり、立ち向かったり…
 私は全部だから時間がかかるけどね」

自嘲気味の笑みを浮かべながら、アキト達の前に座る。

「でも、そんな風に見えません
 アキトさんから聞きました。 遺体を運ぶ時、何時も通りだったって」

責めるような口調のメグミに、あくまでコハクは普通に返す。

「だって、あのまま固まってても意味ないでしょ?
 せめて遺体を持ち帰って、悲しむのはそれからでいいじゃない
 できる事をしました。 でも、やっぱり救えませんでした…

 それで満足するしかないんだよね」

「死んでるのに満足するのって変だよ!
 人の命なんだよ!?」

「そうだね。 でも、自分の命もあるんだよ?
 自分が死んだら元も子もないじゃない?
 それに、死んだ人の分も生きなきゃ…」

「そんなの詭弁じゃない
 自分が生き延びてるのに対して、自分で言い訳してるんじゃないの!?」

「そう? なら、死んだ人を思って悲しむのって意味があるの?
 『ああ、死んじゃったのか、可哀想に』って思ってる自分の慈悲深さに浸って満足してるのと一緒
 詭弁とどう違うの?」

「違うわよ!!」

「死んだ人がどんな人でも、生きたいって思ってたのは本物だと思う
 なら、偽善でもいいから、自己満足でもいいからその人の分も生きようって思うのが悪い事?
 結局言い訳だし、偽善で自己満足よ?
 でもいいじゃない、それで

 悲しみに暮れて何もしないくらいなら、気持ちを切り替えてやる事をやる方が建設的だわ
 そうすれば、救える命があるかも知れないじゃない…」

話しは終りとばかりに立ち上がるコハク。

結局アキトは話を聞いていただけだった。

「特にパイロットは、救う事が出来るかもしれないわ
 それに準じた力は必要だけどね」

後姿で呟いたコハクの言葉に、アキトは頷く。

火星で救い損ねた少女の事を思い出し、強くなる目標を持ったのだ。

漠然とした目標ではあるが、無いよりあった方が身が入る。

「俺も、立ち向かわなきゃ…」

「アキトさん…」

承服しかねるといった表情でアキトを見るメグミを他所に、アキトは動き始めた。

自力で出来る範囲を増やして、救えるように…

 




「アキトはどこ〜〜?」

「艦長、今は歓迎会中ですから抜け出しちゃダメですよ」

「でも、アキトがいない〜〜」

と、歓迎側の代表であるユリカを宥めながら、ルリは周りを見てみる。

自己紹介の済んだヒカルが壇上でゲキガンガーの歌を歌っている。

その周りで、整備班がやんややんやの喝采を贈っている。

フクベ提督とプロスとホウメイなんかは、いつぞやのムネタケの反乱時に現れた男と一緒に端っこで飲んでる。

料理を食べまくってる人もいれば、女の子に声を掛けてる人もいる。

(姉さんは何所に行っちゃったんだろ?)

ルリはそう思いながらも、干渉する気も無いのでユリカの相手をしていた。

ひょっこりとコハクが戻って来たのはその時だった。

両手に追加の料理を持っているのは何故だろうか?

不意にコハクと目が合ったので、アイコンタクトで助けを求める。

それで判ったのだろう。 コハクは料理をテーブルに置くと真っ直ぐにこちらに来た。

「あ、コハクちゃん。 アキトは何所?」

「私はアキトレーダーじゃないですよ…(苦笑)
 でも、今は一人でシュミレーターに乗ってますよ?
 秘密の訓練みたいだから邪魔しないで上げてください」

不意にユリカが妄想モードに突入する。 そして、出た結論。

「そうよ。 アキトはまた私を助けるために秘密で訓練してるんだわ!
 だからユリカは知らないフリをしてなきゃ
 でも、登場したときには「アキトの事は何でも知ってるんだよ」って言って…」

延々と続く起り得る訳の無い妄想が奔走し、結論は…

「ユリカはここでアキトが強くなるのを信じてなきゃ!」

だ、そうだ。

(姉さん、ナイスです)

アイコンタクトで伝えると、苦笑が返って来た。

訳がわからないと思っていると、コハクが手招きをしてきた。

素直に隣に行くと、一つのウィンドウが開く。

シュミレーター内のカメラだ。 そこにはアキトが映っていた。

(…ホントに乗ってる)

「ちょっと遺体見てから落ち込んでるみたいだったから励ましたらコレ
 個人的な追悼のついでだったにしては効果アリだったみたいね」

コハクが小声で言う。

(追悼してたんだ…。 姉さんは)

姉の優しさが自分の周りの全てに向けられている事に、少しだけ不満を感じる。

それが嫉妬、独占欲だとは気付けないルリだった。

「ここにいてもつまらないし、料理でも食べよっか?」

「そうですね…」

宴会と化した歓迎会は進んでいく…


――あとがき――

【幻魔狼】そろそろ一人で後書き書くのも辛くなってきたんで、ゲストをお呼びしました〜

【コハク】はい、後書きでは初めまして。 ホシノ・コハクです

【幻魔狼】と言う事で、無駄に設定詰め込みすぎて、性格付けがあいまいなコハクさんです

【コハク】…それってとっても不味くない?

【幻魔狼】本来ならルリちゃんの「バカばっか」に対抗し得るセリフを用意したかったのですが、それが失敗してこの有様ですよ…

【コハク】…ここは制作裏話し的なコーナーなの?

【幻魔狼】いんや、そう言う訳じゃないぞ…  だめだ、日記の時の感覚が抜けない…

【コハク】まぁ、名前を私から受け継いでるし、しかたないかも知れない

【幻魔狼】…うっし、どうにか修正した。 うん、誤差は修正された

【コハク】そ、そう

【幻魔狼】してコハクさん。 個人的には某型月の同人時代のゲームに出てきたマジカルアンバー的な妖しさを頂きたく‘コハク’と命名したのですが、普通ですね?

【コハク】え? ええ。 一応、普通ですよ?

【幻魔狼】駄目だ! そこで「あらあら、どうしてそんな事言うんですか? 志○さん」とか「そんなこと言うと、お注射しちゃいますよ?」とか言わないとおぉ!!

【コハク】そ、そんな事言われたって、私は‘コハク’であって‘琥珀’じゃないの!

【幻魔狼】そんな… ‘こはく’違いだと言うのかい?

【コハク】…そうです

【幻魔狼】ま、それはいいとして…

【コハク】切り替えが早すぎ…

【幻魔狼】次回の予告をするのですよ!

【コハク】はいはい…  えぇ〜っと…?
      サツキミドリを離れたナデシコ
      大した攻撃もなく火星に向かう彼等は、有り余る若さでとんでもない事を始める…
      コハク達女子クルーは餓えた男達から逃げきれるのか…
      って! なんですか! コレ!!!

【幻魔狼】この次回予告はネタです。 実際の内容とはかけ離れております

【コハク】だったらこんな事やらなきゃいいのに…

【幻魔狼】まぁ、何はともあれ、お疲れ様でしたコハクさん。 次回のゲストはホシノ・ルリさんか、ミスマル・ユリカさんです

【コハク】‘か’って何、‘か’って…

【幻魔狼】次回、すばらしき「料理」 をお楽しみに〜

【コハク】本編とは違う面持ちだったりします。 お楽しみに

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