↑コレも励みになります!「機動戦艦ナデシコ、発進」
「はいは〜い♪」「ちょっと、私の話しを無視するんじゃないの!」
ユリカの着ていた艦長服のサイズダウン物を着たルリの号令にミナトが答え、ムネタケがピーピー喚く。「メグミさん、ユーチャリスとの通信を開いてください」
「は〜い」『ユーチャリスは前方500を航行中<br> 距離の変更?』
「いえ、確認です。 引き続きよろしく」『はいはい。 気楽にね、艦長さん』
「…バカ」勝手に推薦して簡単そうに言ってくれるコハクをチョッピリ恨めしく思っているルリ。
ついつい言葉に出してみたりする。それを聞こえないフリでスルーして、コハクは通信を切る。
取り敢えず進路上に敵影は無く、少し拍子抜け気味の出航となった。
航行行程も8割方終り、後は大気圏突入後にサセボドッグに入港すれば終りである。
「メグミさん、宇宙軍にビックバリアの解除要請を」「はーい」
ルリの指示の下、メグミが通信を始める。今回は誰かさんのように挑発した訳でもないので(表面上は)スンナリと要請は受け入れられた。
『こちらユーチャリス。 先行して大気圏に突入するわよ』「了解です
「はいはい、まっかせてん♪」
ミナトさん、しっかりトレースしてくださいね」「オモイカネ、艦内重力制御の微調整。 体感1G下向きで」
“体感Gを垂直下向き1Gに調整します”と、テキパキと指示するルリに何の違和感もなく返答、操作する各々。
それを見ていたネルガル社員のご感想は?「いやぁ〜、スピーディーですなぁ〜」
「そうだな。 それに的確だ」「これぐらいはして当然よ! 私に勝ったんだから…」
なにやら一名、私念が混じっておりましたが(苦笑)「プロスさん、ゴートさん、それにエリナさん。 感想はいいですからサセボドッグの入港許可をもらってきて下さい」
「その点はご心配なく。 既に取得済みですとも」「補給する物資は事前に集積しなければならないから時間が掛かる
「あ、そうですか。 それじゃぁ、搬入物資のリストを下さい
搬入も時間が掛かるからな尚更、準備は早い」
今の内にチェックしておきますから」「あの、それは僕が…」
「いえ、私は実務なんて出来ませんから…
アオイ副長には実行中の実務をお願いします
リストは見やすく纏める程度ですから」「あ、そうした方がいい……かな?」
「はい。 そう言うことで、お願いします」「あ、うん。 わかったよ」
ルリに流されるジュン。やっぱりそう言うキャラなんだ。
「こら、勝手に人のキャラを固定するなぁ!」いや、モノローグに突っ込みいれられても(苦笑)
「アオイ副長、遊んでないで準備してください
モノローグ書いてる人も、無駄な事してないで筋売りしたら?」「あ、ごめん」
はいはい、そうしましょうか。“大気圏突入” “艦内異常なし” “オッケー”
「ありがとう、オモイカネ
相転移エンジンは?」“出力減少中” “核パルスエンジン、出力増” “異常なし”
「そう。 ありがとう」“どういたしまして”
さて、地球圏に敵が居るとしてもナデシコ級2隻の前には敵ではなく、奇襲にだけ気を付けてサセボドッグを目指すのであるが……交戦もなく入港できてしまうのであった。
「お久しぶりです」
「ん〜、火星でユーチャリスに乗って以降だから、そんなに長くは無いんだけどね(苦笑)」ユーチャリスは先行して送ってあったデータで作られたパーツを代用品と入れ替え中。
ナデシコはRユニットの取り外し実行中。停船中は何もする事は無いので、乗組員には三日間の休暇が与えられた。
その初日、ルリとコハクはユリカのお別れ会の後、サセボシティーのこじんまりとした食堂を訪れていた。「久しぶりに二人で食事するんだから、私が奢るわよ」
「お願いします。 私は…、チャーハンセットで」「ん、それじゃ私は日替わりランチで」
昼時を外していたので、呼びもせずに厨房の店員さんに頼んでしまう。「あいよ、チャーハンセットに日替わりランチね」
手際よく調理を始めるのを眺めながら、コハクはルリに尋ねる。「艦長になってみて、ナデシコはどう?」
「バカばっかです」「こらこら、艦長がそんな事言っちゃダメでしょ」
「姉さんも姉さんです。 自分だけナデシコから出て行って…
これからは別行動ですか?」「…そうなるでしょうね」
「何時まで、こんな事をすればいいんでしょうか?」「こんな事って…?」
「戦争です
何所から来るとも知れない相手に、何時終わるとも知れない戦争を…」「…戦局は何時でも動いているわ
「そう、言い切れるんでしょうか?
こうしている今だって、確かに動いている…
だから終りもいつか来るし、それまでは戦わないと死んでしまう」
相手はアンノウン。 どれだけの勢力があるのかすら解らないのに…」「そうね。 でも、それを調べるには今の軍は腐りすぎているわ」
「そうなんですか?」「何所がドコまで腐っているのかなんて知らないけれど、腐っているのは確実よ
「…どう言うことですか?」
でなければ、既に決着がついているかも知れないもの」「そうね…。 例えば、ナデシコは木星蜥蜴に対して有効な戦力よね?
「もっと早く戦局が動く?」
なら、それを造れるネルガルにもっと船を造らせて買い取り、使えば…」「そう。 まぁ、資金的な問題やタイムラグの関係でそう簡単にはいかないだろうけどね…
「もう少し効率良く戦闘できる?」
でも、損耗した艦艇に手を加えずに新しい船を買っていれば、もしくは…」「そう。 費用対効果がどれ位か?なんて調べてないけどね…
「でも、そうだとしたら何故船を買わないんですか?」
少なくとも、宇宙空間ならば通常の艦艇の1個艦隊くらいはあるんじゃない?
なにせ、火星まで侵攻できたんだもの。 それくらいはあるわよ」「要するに、ネルガルに頼り切ってしまうとどんな傲慢稚気な要求をされるか解らない
「非効率的です。 戦闘が早く終われば、経済的打撃も一時で済むのに…」
競合相手がいれば値段が下がる
今まで使っていた船が勿体無い」「そこが腐り具合の見所よ
「…ホント、バカばっか」
戦争が終われば軍拡が出来なくなる
折角軍需産業の奴等と甘い蜜を啜れてるのに…
だから、早期終結は勿体無いってトコでしょ」「こらこら…
「…は?」
でも、だからこそナデシコ艦長に推薦したのよ?」「だから、彼我戦力差を気にする位に戦略構想が出来るから、ルリを艦長に推薦したの
「でも、それは相手の情報があればこそ出来る芸当じゃ?」
現状、ナデシコ級戦艦はナデシコとコスモス、コンセプトが違うから厳密には戦艦とは言いたくないユーチャリス
その中で、ナデシコ単艦で局所的な勝利は手にする事が出来る
その局所的な勝利の積み重ねで戦局を動かすの」「そうね。 だから、私がユーチャリスでカバーするの
「足元を固めてから相手を… って事ですか?」
最初は地球上にあるチューリップの破壊
それから敵情視察」「そう。 ナデシコでミスマル・ユリカ以外にこんな事を理解できるのはルリやアオイ副長やプロスさんにゴートさん、エリナさんにアカツキくらい
「どうしてネルガルに関わりがあるとダメなんですか?」
その中で、ネルガルに関わりが無いのはルリだけ」「…どうしてだと思う?」
「………」う〜ん、とルリが頭を捻っている内に料理が出来た。
「さて、それじゃぁ先に頂きましょう?」「あ、はい」
モグモグモグ…考えながらなのでろくに味わえていないようなルリを横目で眺めつつ、コハクは思考を更に進めていく。
サセボの宇宙軍のドックの出入り口。
既にお別れ会の後片付けは終り、ユリカはナデシコを眺めていた。「もう、戻って来れないのかな…」
はぁ、と溜め息を吐く。「この船に戻ってくるのは無理だろう」
「フクベ提督…?」突然の声に驚いて振り返ったユリカが見たのは、何時の間にか後ろに立っていたフクベだった。
「しかし…、君の覚悟次第では戻ってくる事も出来るかもしれん
要は君がどうしたいか、ではないのかな?」「私の覚悟…?」
「そう
船から下りることで責任を取るつもりなんだろうが、それは逃げだろう
本当の意味で責任を取ると言うことは……
いや、これは君が自分で気付くべき事だろう…」声を掛けた時と同様の突然さで、フクベは町へと消えていった。
「私の覚悟、責任の取り方……」搬入作業の続いているナデシコを見上げながら、ユリカはポツリと呟く。
「アキトさん。 ねぇ、アキトさんってば!」
「え? あ、ゴメンゴメン」お別れ会の後、アキトはメグミに強引にデートに連れて来られていた。
ライバルたるユリカの下艦に際し、アキトへの再接近を始めたメグミの行動に押し切られていたのだ。そうして、会場からファミリーレストランへ移動して昼食を取っている次第である。
「何を考えてたんですか?」自分の事を見てもらえないことに少し腹を立てたメグミはキツイ言い方になっていた。
「え、ぁ、いや…。 なんでもないよ」「嘘。 …ユリカさんの事ですか?」
「そんなんじゃないってば…」「じゃあ、何を考えてたんですか?」
「うん………
俺達、ルリちゃんに艦長任せててもいいのかなってさ…」「ああ…
「そうじゃなくてさ? 『ルリちゃんを矢面に立たせていいのか?』って
でも、ルリちゃんだったらある程度は安心じゃないですか?
ちょっと頼りないけど、アオイさんもいることだし…」
だって、まだ11歳なんだろ?」そう。 ナデシコという環境から一歩退いてナデシコを見てみれば、脅威としか言い様がなかった。
職業軍人が苦戦して維持している戦闘をたった一隻でこなし、火星から地球まで帰ってきた。そして、船員は一部を除き全員が一般人。
更には絶望視されていた火星の生き残りを救出している。アキトは純粋にルリへの負担の意味で言っているが、軍略、政略、企業間の争い、その全ての前にルリは立たされる事になる。
何せ11歳の美少女艦長。広告塔としては十分すぎるし、彼女自身の能力も目を見張るモノがある。
しかもまだまだ若い。長期間、如何様にも使えるのだ。
「そうかもしれませんけど…
でも、ナデシコの皆がいるじゃないですか?」「そりゃ、そうだけどさ……」
どうにも気に掛かるアキト。碌に味もわからないような状態でコーヒーを飲むのだった。
「ひさしぶりだな」
「…お前か」少し山に入った所。
それくらいしか言えない位に回りに目印も無い所に、ネイティブ・アメリカンの伝統的なテントがある。その中へと、スパイク・スピーゲルは入っていった。
狭いテント内にはゴチャゴチャと色々な物が置いてある。一世代も二世代も前のゲーム機だとか、どこの国の物とも知れない煙草の草。
「ったく、相変わらずのゴミっぷりだな…
で、火星からコッチに来てどうだった?」「…私には寒い国
答えたのは、入り口で立っているスパイクを座ったまま迎えているネイティブ・アメリカンの民族衣装を身に纏った老齢の男。
先祖の居る国か元の星に還るつもりだ」「そうか…
それを言うのを待っていたかのように、老人の腹の虫が鳴いた。
ま、あんたにゃ少しだけ世話になってたからな。 多少は援助するさ」「……」
「……」「わかったよ。 手持ちにメシなんてねぇからコレで我慢しな」
そう言って硬貨を投げ渡す。老人は例を言うでもなく拾い上げると、変わりに右手で砂を掴みあげた。
掌を上に向けたまま指を開き、砂が指の間からこぼれ落ちる。無くなると砂を掴み、同様に零す。
それを数回繰り返し、老人は言葉を紡ぎ始めた。「泳ぐ鳥よ
「またかよ…」
お前は真実を見る。 そして、死ぬ」「……」
老人は何も答えず、掌に残った砂を眺めている。「まぁいいさ。 邪魔したな、爺さん」
スパイクが去り、見えなくなった所で老人はやっと動き始める。「マカンタンカの恵みあれ」
そう言って、掌の上の砂を吹き飛ばす。舞った砂が老人に何を見せたのかは誰にも解らない。
「失礼しますよ」
「あ、プロスさん
どうしたんです?」ジュンの副長室に入ってきたのはプロスだった。
「いや、少しはお手伝いして置こうかと思いまして」「ありがとうございます
「なに、これでも企業人ですからな
でも、ご自分のお仕事の方は?」
そう言うことは手早く済ませる素手を知っていますよ」「そう言うものなんですか?」
「ははは、そう言うことにしておいてください」笑って誤魔化すプロスに、これ以上聞いても無駄だと悟ったジュンは、素直に手伝ってもらう事にした。
暫し、黙々と実務をこなしていく。
「時にアオイ副長」
「なんですか?」互いに顔を上げずに言葉を交わす。
何か大事な話しなのだろうが、プロスが作業しながらなのだから自分も、と言った感じでジュンが作業を続けているだけなのだが。「これ以後、ルリさんが艦長職を兼任されるわけですが、実質貴方が兼任しているのと同じです」
それはわかっている、と言わんばかりに続きを促す。しかし、プロスは先を渋る。
「ですから、これ以上厄介事に巻き込むのは非常に心苦しい」「だから、なんなんです?」
ついつい、手を止めてプロスを見る。プロスの方も、手を止めて眼鏡のズレを直しながら話を続ける。
「作戦の拒否についてはルリさんがその権限を持ちます
指揮権も貴方よりもルリさんの方が上
そのルリさんがもしダウンしたら…」「僕が艦長職を引き継ぐ…
「そうですな
嫌な言い方ですけど、その方がいいんじゃないでしょうか?」
私としても意図してそういった状況を作ろうとは思いませんが…
もしも、と言う事があるかも知れません。 その時は……」「わかってます。
プロスは少しだけ、意外そうな顔をする。
僕だってユリカの背中だけを追っている訳にはいかなくなりましたから…」「はは、やっぱりそう言う顔をするんですね」
「あ、いや、これは……
失礼しました」気を休めるつもりで、ジュンは少しだけ話をする事にした。
冷め切ったコーヒーを啜って、それから口を開く。「実は、一番星コンテストの時にコハクさんと話しをしたんです
「そうですか
僕は何となく今まで通りかなと思ってたんですけど、一喝されちゃいましたよ
『貴方の肩にナデシコの200余名の命がかかるのよ、そんな気安い覚悟で受けないで』って
その上で『貴方はナデシコで何をしたの? 元艦長の尻を追いかけて来ただけ?』って言われちゃいました
そこで気付いたんです。 もう、これからユリカの指示に従う自分じゃないんだって
恐かったけど、少しだけ自分の力を見てみたいって思ったんです
勿論、クルー全員の命なんて重過ぎるんですけど…
『それがどうしたの? ルリはこれからそれを背負うのよ? 貴方は一生女の子の後ろにいるつもり?』
だなんて、僕だって男です。 そこまで言われて引ける程の腰抜けじゃない」
…よろしくお願いします」プロスは出鼻を挫かれた。
ジュンのフォローに来たつもりだったのだが、決意を聞くに留まったのだ。―― コハクが意外な根回しをしていた。
プロスは再び、コハクの恐ろしさを感じたのだった。
「喰らえ!」
「大技狙いはダメだって〜」ゲームセンターの一角。
ナデシコ姦三人娘が格ゲをやっていた。ランプータンとナチュラルライチが接戦を繰り広げている。
「萌え萌えランプ。 ランプたん。 ランプーたん …ククク」「どわぁ!?」
イズミ操るランプータンがリョーコ操るライチの攻撃をジャンプで回避しつつ空中攻撃でKOする。大技なのでモーションで狙いがもろバレだったのだ。
まぁ、それでも一秒に満たないモーションなのだが、パイロットとして動体視力を鍛えている三人には結構わかるものらしい。「だ〜、チクショウ!」
「イズミ、次私ね〜」「大きな川、それは大川(たいせん) なんちゃって」
ワイワイやりながらも、実はそれなりにトレーニングしている三人だった。まぁ、何のトレーニングだと聞かれた時には回答に窮するところなのだが…
「こいつは………
ユーチャリス、その設計図を読み解いていたセイヤは一人呟く。
俺の作品か?」「ここの砲塔の部分は俺じゃ絶対使わないギミックがあるが、それ以外は…」
「それはまた、随分と可笑しな話しですな
火星に住まわれた事は?」同席していた、いや。 この設計図をセイヤに見せた張本人のプロスが尋ねる。
「は、冗談でも火星に住んでた事なんてありゃしねぇよ
だいたい、俺の物って言ったってここ最近の癖までみっちり再現出来る筈…
あ? ここでそれを…
あぁ、そうかそうだな… 今の状態よりスマートだ」「? どうかなされたのですか?」
「いや、感心してたのさ
思いつかない範囲じゃないんだが、それがここに載ってる
こりゃ、俺と同種の人間か、俺自身にしか描けない図面だな
ん? プロスさんよ」「何か?」
「ここの砲塔との接続部分、元々あった物じゃないな?」「ええ、増設した物だと聞いていますが?」
「これじゃダメだ、ロスが多い
ちょっくら弄らせてもらえないか?」「それは構いませんが、よろしいのですかな?」
「まあな。 これから別行動とるかも知れねぇ
今の内に出来るだけの餞別は贈っといてやりてぇし…
俺自身、学ぶ事が多いからな」プロスの見る限り、好奇心とか探求欲とか、それ以上にユーチャリスを知りたいと思っているように見えた。
「折角の有給を使ってでも?」「俺の趣味だからな」
その言葉を聞いて、プロスもこれ以上何かを言うのをやめる事にした。「それでは、準備が出来たら言ってください
「…おう、見せてもらうぜ」
ユーチャリスのドックにご案内します
それから、こちらも見ていただけますか?
ただし、中身は内密にお願いします」プロスの態度に、直感的に何かあると感じたセイヤは一瞬の逡巡の後に首を縦に振った。
プロスは一枚のウィンドウを開くと、セイヤに見せる。「こりゃぁ………
「そうであったとしても、コレを分解・組み立てしてデータを取って頂きたいのです
人間の乗るもんじゃねぇな」
勿論、修理・修復をしながら、です」「…何に使うかなんざ知らねぇ
「そう、ですか…
だが、コレには手を出す気にはならねぇよ」
コハクさんのリクエストなんですが、やはり無理ですか?」「技術的な問題も多少あるが、コハクちゃんが使うってんなら尚更だ
「そうですか…
こんなモン、存在しちゃいけねぇんだよ」
では、ユーチャリスだけでもお願いします
私はここで待っていますから」納得していない表情ではあるが、セイヤは準備を始めた。
一方で、プロスも考えていた。(コレが必要になる事態とは、どんな事態なのでしょうなぁ?)
ゴテゴテとした装飾品の無い、それでいて厳格さが漂う趣味のいい部屋。
ネルガル重工、その会長室であり会長の人となりを表している部屋である。「これが溜まった分の書類です
「わざわざ紙で寄越すほどの書類なの、これ?」
期限が近いので手早くお願いします」このご時世、意外と電子書類も多いのだが、偽造云々の事を手書きと電子書類の併用が一番偽物が出にくかったりする。
重要度の低いものは大抵が電子書類なのである。まぁ、例外的に最優先事項が回ってくることもあるが、その時は後付けで紙の書類が発行される。
最初から紙で来た書類に対しては、サインした上で同封された電子書類にもチェックを入れる。とりあえず紙で来た方が手間が多いのだ。
「これは正真正銘の重要書類です
その他の嫌がらせに近い低重要度の紙書類についてはこちらで保管していますので先にそちらを終わらせてください」げんなりとした表情を返しつつも秘書にコーヒーを頼むと、手を付ける前にもう一人の秘書へと連絡を入れる。
「やぁ、ナデシコの調子はどうかな?」『あんた、書類は片付いたの?』
でたのはネルガル重工会長秘書、エリナ・キンジョウ・ウォンである。「僕は心配事を解決しないと気になっちゃって仕事に手がつかなくなる性質でね
『そ。 サボる口実にされるのも癪だから報告しとくわ
エリナくんから報告をもらっておこうかなって」
今のところ各種破損個所の確認は完了して修復に入ってるわ
資材はこちらにあるもので間に合ってるから特に遅滞なしで予定に間に合わせられるはずよ
物資の搬入に関しても予定通りよ。 ただ…』快調に回っていた舌が止まり、会長はそれで何について口を閉じたかを大体わかった。
「武装増設とユーチャリス、か…」『そう。 艦長と副艦長の連名で出された案による強化計画に沿った増設をしようとするとどうしても予定に間に合わないもの
「そこは頭が痛いなぁ
ユーチャリスの方は未だに協議中ですからなんとも…
それもこれも、会長が社長派の重役を抑えられないからですけど』
抑える為の手札を手に入れるためにわざわざ戦艦一つを一人に任せろって言って、相手は納得してくれないじゃない?」そう、バラされて研究に回される予定だったユーチャリスを出航させるためには社長派の重役達を黙らせないといけない。
ユーチャリス自体がその重役を黙らせる切り札を確保する任務も負うのだから皮肉な話しである。『そこは会長が考えることですから』
「ありゃ、つれないなぁ〜
…兎に角、ユーチャリスの方はどうにかするから出航準備を進めちゃってくれないかな
それと、ゴートくんからは何か報告あった?」『流石に突然現れた戦艦に戸惑ってるよね
ゴートは現在防諜の指揮をとっている。
探りは入ってるけど、戦力として未知数だから危険は冒すつもりはないみたいね』指揮下には一部ネルガルシークレットサービスも混じっていて、ネルガルの本気さが窺える。
「まだ本格的に工作は仕掛けてこない、か…
ま、くれぐれも油断しないように言っておいて
それから武装の事だけど…
そうだな、遠・中距離支援用の装備を優先しておいてくれないかな」『近接戦闘用の高射砲は捨てろ、と?』
「そもそも戦艦で機動兵器を落とそうってのが間違ってるよ
そんな物は面制圧系の兵器と機動兵器で十分でしょ?
だったらグラビティーブラストなんかの出力とか効率を高める方が効果的だよ
残念ながらそのグラビティーブラストの強化ができない以上、遠・中距離用の支援火砲をそろえるのが正解だよ
後は艦長さんの腕前に期待するしかないね」『11歳の艦長に何を望むつもり?』
「さぁ? ただ、姉が姉なら妹も妹かもしれないでしょ?
分の悪い賭けとはいえ、そこまで危険視するものでもないと思うけど」『あんたねぇ、我が社の社運を姉妹に託すつもり!?』
「ま、尻馬に乗ればどうにかなるでしょ
ただ、姉の方はちょっと目立ち過ぎだねぇ…
僕の正体も最初っから知ってたみたいだし、ちょっと気になるかな」『とか言って、ナンパでもするつもりなんでしょ?』
「おっと、そろそろ書類に取り掛からないと徹夜になりそうだね
それじゃ、そっちはよろしく!」『あんた、やっ… ブツッ』
慌てて通信を切り、呟きを漏らす「いやぁ、僕ってそんなに軽そうに見えるのかなぁ?」
「ええ。 知らぬは本人のみ、と言ったところですわ」「あら、そぉなの?」
思わぬところからの攻撃に鳩が豆鉄砲でも喰らったかの様に間抜けな顔でそう呟くアカツキだった。
食事時も外れたナデシコ食堂。
賑わいの欠けたその一角で、ミナトはジュリアと話していた。ミナトにとっては“バカばっか”なクルーに毒されていない所が新鮮。
ジュリアにとっては“バカばっか”一辺倒でない数少ない良識人。お互いにナデシコ内では数少ない“話せる相手”だったのだ。
まぁ話題はそこまで特殊な物ではなく、ごく普通の雑談なのだが。「おや、ちょいと混ぜてもらってもいいかい?」
そんな二人の席に、珍しい人がやってきた。「あら、ホウメイさん」
「お仕事の方は大丈夫なんですか?」「殆ど出ていっちまったからね、仕事量も少ないさね」
そう言って、椅子に腰をおろすホウメイ。入り口を見える位置に座っているあたりで、客が来たら厨房に引っ込むのだろう。
「珍しいですね、こうして話すのは…」「そうだねぇ
ホウメイがジュリアに尋ねる状態になり、ミナトは話しの流れを追おうと気楽に構える。
それで、あんたに少し聞かせて欲しい事があるんだよ」「聞きたいこと、ですか…?」
「ああ。 プロスの旦那に聞いた話しなんだけど…
あんたとあんたの旦那の二人と提督が、コハクんとこの船に乗り移るって話しだよ」「うそ、そんな事聞いてないわよ、私」
「…言ってなかったものね
コハクがあの船で出ると言うから、保護者としては付いて行かないと… ね?」薄い笑みを浮かべ、ジュリアはミナトに告げる。
いまさら覆らない決定事項だ、と言わんばかりに。「そっかぁ・・・
「もともと地球で降りるって話しだったでしょう?
コハクちゃんもジュリアさんも、行っちゃうのかぁ」
だから、不用意に伝えても意味はないから」「あ〜、それって冷たい」
今は別れを惜しむように、ジュリアとミナト、ホウメイは話しに花を咲かせるのであった。
「お嬢さんたち、ちょっと見て行かんかね?」
ラテン系の気のよさそうなサングラスをかけたおじさんに、ルリとコハクは呼び止められた。おじさんは人通りもまばらな路地でアクセサリーを売っていた。
「こんな所で商売ですか?」「いやぁ、メインストリートはワカモンに取られててね
トントンとアクセサリの入ったケースを叩いて誘う。
どうだい、見ていくだけでも」ルリは興味がなさそうだったが、コハクは珍しそうに覗く。
「こっちのなんかはあんたに、それなんかはそっちのお嬢さんにぴったりだ」おじさんはアンモライトの飾られたペンダントをコハクに、ランドスケープ・アゲートのシルバーブローチをルリに差し出す。
「過去の思い出と愛、未来……
確かに、ぴったりのモノね」「そうですか?
コハクの呟きを聞き逃したルリは、ブローチを受け取りもせずにコハクに訴える。
少なくとも、私には似合いません」しかし、おじさんはそれを見逃すほど商売下手ではなかった。
「いやいや、ぴったりだ」「とりあえず、二つでいくらなの?」
「モノは上等、ペンダントは7,000
シルバーブローチは年代モンなんで20,000」と、結構な値段を迫ってくるおじさん。
吹っかけてるだろうなと思うルリを尻目に、コハクは値引き交渉に入っていく。「二つで22,000」
「いくらぴったりな人でもそれは無理ってもの
25,000」「なら、他所に行くけど?」
「…わかったよ
せめて24,500」「あと500」
「あんた鬼かね?」情け容赦ないコハクの値切りにおじさんは涙目で尋ねる。
少し考えてから、コハクは答えた。「いえ、鬼神よ」
「キシン、鬼神ね・・・
どんな鬼神だね?」「そうね…
ニヤリ、と寒気のする笑みを見せ、コハクは言う。
コロニーを単騎で落とす鬼神かしら?」「なるほど、嘘ではなさそうだ」
大仰に驚いてみせるおじさんに、コハクは改めて尋ねる。「で、1,000下げる準備はあるかしら?」
「増えとるがね! 500下げるから買ってきなさい」「…まぁ、いいかな?」
「まったく、現金でないなら帰ってもらうよ?」「あるわよ。 はい、24,000円」
「ん、確かに受け取ったよ
それじゃ、幸運を」「過去に対して幸運を祈ってもね…」
おじさんに冷笑を返して、コハクはその場を立ち去る。よくわからないコハクの一面を見つづけていたルリは、少し送れてコハクに続いて立ち去る。
「いやいや、本当に末恐ろしいお嬢さんだ」冷や汗をかきつつ、一息つくおじさんだけが残された。
――あとがき――
【幻魔狼】今回は長きに渡る不更新、大変すみませんでした!【コハク】本当に長かったわね…
【幻魔狼】そりゃぁもう、ついに本編とは大いにズレる位置まで来ましたから【コハク】それじゃあ、ここからが正念場って事ね
【幻魔狼】はいはい、その通り。 しかし伏線張りなんて出来ませんからねぇ…【コハク】知らせるか、裏設定で通すかってことかしら?
【幻魔狼】そうなりそうですよ。 なるべく伏線は張りますが…【コハク】バレバレになったら元も子もない、か…
【幻魔狼】そんなんで、時間がかかった割に… って事もあるかもしれません【コハク】容赦しないわよ?
【幻魔狼】…まぁ、上達のための糧にしたいと存じます(汗【コハク】気に入らなかったら容赦なく「こうした方がいい」とかメールを送ってくださいね
【幻魔狼】ホント、情けない限りですがよろしくお願いします



