双子の歩く道 Session 6

「ミサトさん、ちょっと良いですか?」

前回の戦闘の後処理の書類に目を通しているミサトに声をかける。

「ん? な〜に?」

ミサとは書類から目を離さずに返答する。

「え〜とですねぇ。 実はレイのマンションの事に関してなんですが・・・」

それを聞いたミサトが目を光らせる。
今までのやる気のなさはどこに飛んで行ったんだか…

「ふ〜ん、なになに?
 セイジ君はレイに興味あんの?」

「無きにしも非ず…、です
 それでですね。 これは提案なんですがレイを俺らのマンションのどこかの部屋に引越しさせてはどうでしょうと思いましてね・・・」

「ふぅ〜ん。 そういう手を使ってまで近づこうとする?」

人の悪そうな笑みを顔に貼り付け、心底楽しそうに聞いてくるミサト。

「はぁ。 別に、そう思ってくれてもかまいませんけど…
 人件費の削減にはなるんじゃないんですか?」

「あら。 そんな事気にしてんの?」

返答に納得いかなかったのか、一転しつまらなそうな顔になる。

「ま、自分が所属する組織の事は気にする人間なんで」

「うぅ〜ん、そうね。 あそこら辺もサッサと片付けちゃいたいからね
 レイが立ち退けば爆薬使っても苦情来ないものね〜」

一考モノかと考え込むミサト

「管理費も削減できてレイの対人関係を築く事もできるしね。 駄目な理由はないでしょ?」

「で、私に話したのはそれだけの理由? 何をして欲しいの?」

「リツコさんの説得を頼みます。 父さんはコッチでどうにかするから」

「いいわ。 でも、部屋は?」

「決めてないんですけど…」

「そうね。 私の部屋を使ってもらおうかしら?」

「・・・引越しは手伝いますよ。 レイの為にだけ」

(くそ! 利用された・・・ ま、お互い様か・・・)

苦虫を噛み潰したような顔をしているに違いないが踵を返して部屋から出て行こうとしていたから見られてはいないだろう。

「そ。 じゃ、よろしくね〜ん♪」

ミサトの声には多少の含み笑いがあった気がする。





生活に必要最低限の物だけしかない。 到底少女が住んでいるとは思えない場所だ。

しかし現実にレイの住んでいたマンションだ。

今はもう引越しの準備も終わり、じきにレイの家ではなくなっているが…。

コンクリート丸出しの壁を正面に見ながらセイジはゲンドウに電話をかけている。

『何だ?』

「・・・レイの引越しを承認してくれ」

『・・・何故だ?』

「ま、費用削減の為って事で」

『・・・・・・』

この沈黙は思考を表している。 それを見て(聞いて)取って、もう一押しをかける事にした。

携帯電話の話口を押さえ、音が向こうに漏れないようにして隣のレイに言う。

「レイ、代わって」

コクリと頷くと携帯を持つ。

「代わりました。 ・・・はい
・・・・・・・・・はい。 お願いします。 ・・・はい、わかりました」

レイが携帯を渡してくる。

「で? OKしたの?」

『・・・ああ』

「ま、今度ゆっくり話そうよ。 じゃ、切るよ」

通話を終了させてレイを見る。 考え事をしているようだ。



(私、何ぜ碇指令にお願いしたの? 碇君が決めたから?
 指令よりも碇君が大事なの? ・・・わからない)

「レイ?」

セイジが声をかけてきた。

「・・・なに?」

「珍しく自分の意見を示したけど、何で引っ越すって決めたの?」

(わからない…。 でも、)

「・・・それは碇君が決めたから」

「あ、そうそう。 そろそろ俺の事『碇君』って呼ぶのやめてくれないか?
 『碇』は三人も居る事だしさ。 せめて俺と兄貴だけでも名前で呼んでくれないか?」

「・・・わかったわ」

「で、話が戻るけど。 俺が決めたらそれに従うのか?」

(そうなの? 碇指令は聞いてきただけ。
 私は選べた。 そして選んだ・・・)

「・・・・・・わからないわ」

「・・・そっか。でもさ、レイ
 そうやって自分で自分のしたい事を選択するのって、人間にとっては自然な事なんだよ?」

「・・・そう」

(それはいいことなの?)

「・・・レイはレイのやりたい事を選択した
それってどっちが自分にとっていい事なのか比べたってことじゃないのか?」

「・・・そう? そうかもしれない」

「要するに自我が生まれたって事だろ? だったら感情も持てるように成るんじゃないか?」

(感情。 それは碇指令には求められていない・・・)

「・・・なぜ? 私は人形として生きて行かなくてはならないのではないの?」

「それは父さんの言い分さ。 俺はそうとは思わない。 レイは生きてるんだ
 それって誰かの支配を受ける事も、それを退ける事もできる
 少なくともレイは今。 心の支えってヤツが父さんなんだ
 でも、父さんは本当の意味でレイを必要としてくれているのか?」

(本当の意味で・・・? ・・・碇指令にとっては私はただの・・・)

「碇指令にとって、私は道具。 それは必要とされているのとは違うの?」

「そうだよ。 なんて言えばいいのか… 本当に必要とされるって事は…
 そう、レイと一緒にいたい、必要だ、そう思う人がいるって事じゃないかって俺は思うよ?
 そうそう。 レイが必要だと思う人もいると思うよ」

(私と一緒にいたいと思う人? 私が必要な人・・・? 私が必要だと思う人?)

「…それは誰?」

「それは自分で見つけるんだな。 他人にわかる事じゃない」

「・・・碇、・・・セイジ君はどうなの?」

「俺か? ・・・一人居たけど、もうこの世には居ない
 もし他にそういう人に出会えたなら、それはそれでいいかもな…」

「そう」

(私を必要とする人、一緒にいたいと思う人・・・・・・)






自室でくつろいでいたシンジの耳に、携帯の着信音が入ってくる

発信者はセイジ。 取り敢えず電話に出る

『兄貴、今どこにいる?』

「え? 家だけど・・・」

『じゃ、ちょうどいいや
 ミサトさんに許可もらってったから、レイをミサトさんの家に引越しさせるんだよ
 ミサトさんが今、家に向かったから一緒に入って部屋の掃除だけしといてくれないか?
 俺も後から行って手伝うからさ』

「え? 綾波が引っ越してくるの?」

(そんな事聞いてない…)

『隣の家だけどね。 じゃ、頼んだよ?』

「うん。 わかった」

ゴミ袋を持って玄関を出ると、車のドリフト音が聞こえてきた

(なんか、どこかで聞いた覚えが・・・)

考え込んでいるうちに答えは自らやってきた。

「あら、シンジ君。 早いじゃない」

「えぇ、まぁ。 やる事が無かったので」

「そ、まぁいいわ。 じゃ、早速お片づけしましょ?」

自分の家の鍵を開けながら言うミサト。 ドアのエアが抜ける音がして扉が開く。

ミサトはさっさと入ってしまう。

「えっと、お邪魔します」

続いて部屋に入ると、そこでシンジが見たものは・・・

何時までも片付かないゴミの山。

そこで、今日初めて気付いた事がある。

「? ミサトさん。 何で冷蔵庫が二個もあるんですか?」

「あぁ、そっちはペンペン用」

「ペンペン?」

「今は寝てると思うから起こさないでおいて。 そのうち起きるわ」

「はぁ・・・」


それから暫くゴミを整理しているとチャイムが訪問者の到来を告げる。

「はいは〜い。 どなたかしら〜?」

応対にはミサトが向かった。シンジも後ろについて行く。

『ミサトさん? 俺です、開けてください』

「はいはい。 どうぞ〜」

ドアの開く時のエアの抜ける音が聞こえ、ダンボールを一つ抱えたセイジと、何も持っていないレイが入ってきた。

「お邪魔します」 「・・・お邪魔します」

「レイ〜。 あなたは違うわよ〜」

「・・・なぜ?」

「だってあなたはこれから、ここが家なのよ? そうすると違う言葉なんじゃないの?」

「・・・ただいま」

「はい。 お帰りなさい」


それから暫く掃除は続き、30分後にはすっかり綺麗な部屋になっていた。

「兄貴。 今後もミサトさんに任せといたらこの家はどうなるんだろ?」

セイジが小声で聞いてきた。

「・・・わからない。 でも、レイには教えておいた方がいいかもね」

シンジも小声で返答する。 ミサトは今、レイにどこに何があるかを教えている

「・・・だな。 ミサトさんには任せらんないしな
 レイが覚えるまでは俺らで代行するしかないか・・・」

「そうだね。 じゃ、今までの担当がそのまま教えるって事で」

「おう。 ちなみに今日の晩飯はどうするんだ?」

「材料はあるから今から作ろう」

「じゃ、今からレイに教えるか」


「・・・と言う事で、レイ。 今日から家事全般について、一通り教えるよ」

セイジがそこまでの事情をレイに説明した。

「わかったわ」

以後の説明はシンジが引き継ぐ形になった。

「洗濯は・・・。 洗濯機の使い方を覚えて、洗濯物は晴れてたら外で干す事、これはいいよね?」

「ええ」

「それで、掃除はさっきやった通り、掃除機をかけるだけでいいよ」

コクリと頷くレイ。

「ゴミは分別しておく事と、回収日をちゃんと守る事。 忘れないようにね?」

「ええ」

どう考えてもワンパターンな反応。 大丈夫なんだろうか?

「それから、これから料理の作り方を教えるから」

「?栄養食品で十分ではないの?」

「え、それは・・・」

口篭もってしまったが、セイジが助け舟を出してくれた。

「それだけだと味気ないんだよ。 栄養を取るだけの意味合いしか持たない食事じゃぁねぇ?
 いろんな味付けのされた種類の違う食べ物を食べて、味を楽しみながら食べるんだよ」

「そう?」

「そうなんです。 ま、食べてみればわかるって
 そう言えば食べれないものとかある?」

「肉は駄目」

「牛、豚、鳥、…後は魚。 全部?」

コクリと頷くレイ。 セイジはコッチを見てくる。

「今日は当番兄貴だろ? メニューは?」

「えぇと…、散らし寿司にしようと思ってたんだけど」

「フム・・・。 そしたら魚は入れないで作ろうか」

「材料ないよ?」

「・・・ミサトさんにひとっ走り行ってもらおう。 俺がついてくよ」

「じゃ、ご飯だけ炊いとくね」


セイジとミサトが買出しにいって二人きりになってしまうとどこか動きがたい雰囲気が漂いだした。

「えっと。 ・・・ご飯の炊き方はわかる?」

「いいえ。 …やった事無いから」

「そうなんだ。 えと・・・」

どうにか間を長くもたせられないものかと思いながらもレイに炊飯器の使い方や米の研ぎ方を教えていく。

「・・・これで後は時間になるまで待つだけ。 わかった?」

「ええ、大体は」

(う、これ以上間が持たない。 何とかしなきゃ・・・)

もともと女の子と話す事自体が少なかったシンジにとって、レイと会話をするのは至難の技だった。

どうしても沈黙がその場を支配してしまう。

「・・・碇君の事。 名前で呼んでもいい?」

その沈黙を破ったのは予想を反してレイだった。

「え、うん、いいよ。 でもどうして?」

「セイジ君が、区別がつかないからそうしてくれって言ったから」

「・・・そう、なんだ。 セイジとはいつも何を話しているの?」

「その時に起こった事についてしか話さないわ」

「父さんとは?」

「・・・どうしてそういうこと聞くの?」

「あ、ゴメン・・・」

「・・・謝るような事。 言わないで」

いつもの声から考えれば、怒っているような。 憤りを感じているように聞こえた。

「うん。 そうするよ」

またしても沈黙が二人の間を流れる。

「ただいま〜」

ミサトのその声に救われた気がした。

「お帰りなさい」 「・・・お帰りなさい」


その後もレイと話をしてみようとしたが、セイジがいないと長続きしない事がわかった。


夕食も終わり、自分の家に戻り、風呂に入って寝る前に、セイジに聞いてみた。

「ねぇ。 セイジは綾波の事どう思う?」

「ん? そうだなぁ〜。 綺麗だけど、まだ知らない事が多すぎるかな?」

「料理とか?」

「いや。 もっと根本的なもんだ」

「・・・例えば?」

「ん〜〜。 何て言うかなぁ、あえて言えば感情が無いんだよねまだまだ」

セイジは頭をボリボリとかきながら答える。

「・・・感情が薄いんじゃなくて?」

「薄いんじゃなくて、無いの。
 まったく無い訳じゃないんだけど、わかんない人にはわかんない程度」

「・・・。 僕はまだわからない」

うつむき加減で呟く程度に言ったのだが、セイジには聞こえていたようだ。

「そりゃそうさ。 人間、血縁者の考えすらわかんないもんだしな
 暫くレイを見ててやっと見出したもんなんだから、二日やそこらで見つけ出されたら俺がなんだったんだって言いたくなるよ」

「セイジっていつからコッチ(第参東京市)に来たの?」

「兄貴が来る一ヶ月前だよ」

「一ヶ月って長いんだなぁ・・・・・・」

シンジの言葉を受けて、セイジは軽く笑って自室へと戻っていった。

シンジも自室へ行き、布団に入る。

夜は深けていく・・・


後書き…?

幻魔狼「ふぅ、やっとシンジ君が愛に目覚めた」

セイジ「同時に嫉妬にも目覚めたな」

レイ 「私は貴方のモノ…」 ←恍惚の表情で…

シンジ「うわぁ!? 綾波!!?」

幻魔狼「あちゃ〜、全国の綾波ファンの皆様が怒りに燃えてるよ?」

セイジ「かもな」

レイ 「どうしてそういう事を言うの?」

幻魔狼「そりゃぁ、羨ましいからだよ」

セイジ「うわ、ぶっちゃけた…」 ←半歩引く

レイ 「貴方じゃ駄目」

幻魔狼「そう言うのはわかってたけど、そうストレートに言われると…(涙」

セイジ「諦めとけ…」

幻魔狼「…致し方あるまい、かくなる上は碇シンジに作者の鉄槌を…」

シンジ「うわぁ!? と、ところで、セイジの言ってたセリフなんだけどぉ!!」←必死で話題を逸らす

セイジ「あぁ、『一人居たけど、もうこの世に居ない』か? 俺も気になってた」

幻魔狼「フフフ…。 セイジ君にはまだまだ謎を沢山抱えておいて貰うよ?」

レイ 「貴方の好きそうな謎ね…」←今後の予定を勝手に読みつつ

幻魔狼「…別に好きなわけじゃないんですが?」

シンジ「どんな感じなの?」←今後の予定を覗こうとする

幻魔狼「あ〜。 本編に登場してる人物の中で見れるのは綾波レイ様ただ御一人
    シンジ君には見せませ〜ん。 勿論セイジもね」

セイジ「へいへい。 じゃ、本編で出てくるのを待ちますよ」