双子の歩く道 Session 10

あくびを噛み殺しながらも、今さっき搬入・組み立ての終わった参号機のエントリープラグに座っているセイジ。

『ちょっと。 真面目にやってもらえる?』

リツコが注意してきた。

と言ってもリツコ自身もついさっきあくびをしていたのだが。

「と、言われてもねぇ…
 シートは今まで使ってたのだし、ほんのチョットある違和感さえ我慢してしまえばまったくと言って良いほど初号機と変わり無いんですもん。」

『違和感? どんな感じなの?』

眠いなりにも真面目に聞いてくるリツコに具体的なイメージを例として挙げる。

「そうですねぇ。
 …あえて言うなら実物とスクリーン上の差ってとこですか。
 色、形は同じでも実物にある躍動感みたいなのが薄れてるって感じ。」

そんな事かと言わんばかりの表情を作ってリツコは答える。

『しょうがないわよ、コアは初号機のコピーなんだから。』

「使える機体数が増える方が好ましいんでしょ?
 実際の戦闘に支障が無い程度の違和感です。 安心してくださいよ。
 それより、弐号機はいつ届くんです?」

『さぁ? 近々届くそうよ。
 時期は未定だけどね。』

「エヴァが四機ですか…
 ミサトさんがやりやすくなりましたね。」

『でも私達は苦しくなるのよ。
 まったく、最近ろくに休んでないわ…
 はい、上がって良いわよ。』

「お疲れ様です。」

色々と大人の世界へ首を突っ込んでいるだけあって、苦労を察する事は出来た。

何か手伝いが出来るかどうかと言われると話しは別だが…。



現在体育の授業中である。

セイジはこの授業が始まる前の休み時間にNERVに連れて行かれた。

参号機が届いたんだそうだ。

授業は外でバスケをしている。

今はシンジのいるチームの出番ではないので座っている。

そうしている今、視線の先にあるのは女子が水泳の授業中のプールだ。

最初は何を見るでもなく視線を移動させていたが、レイがその線上に来た時点で止まっていた。

暫くその状態が続いたが、それに終止符を打ったのは肩に重くのしかかってくる腕と声だった。

「なんやセンセ、誰を見とるんや?
 ……ははぁ〜ん。綾波やろ?」

トウジの言葉はまさしく図星だ、反論できない。

「そうか。 シンジは綾波がいいのか〜。」

反対側の肩にも重さがかかる。
ケンスケだ。

「綾波の胸。」「綾波の太股。」

「「綾波のふくらは〜ぎ〜〜」」

むさ苦しいと言える形相で迫ってくる二人は、しかしシンジの考えている事とはまた別のことを考えていたようだ。

「そ、そんなんじゃなくてさ。
 …綾波っていつも一人なのかなってさ。」

「な〜んだ。 そ〜ゆ〜事考えてたんだ。」

心底残念そうに言うケンスケ。

「ケンスケはわかる?」

「さぁ? エヴァのパイロット同士なんだから、シンジの方が知ってるんじゃないの?」

「わかんないから聞いたんだよ…」

その言葉は二人には聞こえていなかったようだ。



参号機の起動実験を終えて、セイジは学校には戻らずに家の自室に篭ることにした。

最近の日課の一つはMAGIにハッキングをかける事。

ばれたら相当ヤバイのだが、この技術は後々必要になるので今のうちに習得しておく必要があった。

徹夜もしたりするので、最近は寝不足気味だ。

指南役をしてくれたのがリツコだけあってキータッチも技術部オペレーターの伊吹マヤにも勝るとも劣らない実力を持っている。

もう一つは剣術と体術の稽古と射撃の練習である。

剣術は預けられた先の伯母さんの家系に受け継がれてきているモノで、体術はそれを使いこなすための基礎の役割を果たす。

両方とも師範である伯母に勝てる実力を有している。

射撃は、銃が好きな伯母の夫が、アメリカに引っ越した時に、『自衛するためには接近戦ばかりでなく、銃を効果的に使う知識と技術も必要だ。』と言われ、どう考えても自衛の範囲を超えるような種類の銃の使い方まで教わった。

この三つはNERVの施設を借りて行っている。

今日は帰りがけに済ませてきた。

パソコンを立ち上げ、訓練を始める。

(ん〜。 今夜も徹夜になりそうだ…)

 


シンジに見送られて、J・A(ジェット・アロン)の試運転の視察に行く。

無論徹夜をしていたから眠いのは当たり前だ。

ミサトにいきなり言われ、しかも強制参加だったのだ。

車に乗って、ヘリに乗り継いだ所までは起きていたが、それから会場である旧東京に着くまでは寝ていた。

会場では無意味にビール瓶だけが多い席に座る事になっていた。

料理も多少あるが、他の席とは比べ物にならないレベルの物だ。

一緒に来ていたリツコが質問等をしていたが、耳に入っても理解できるほど脳が働いていない。

とりあえず出ていた料理を食べる。

量が無かったために簡単に食べ終わってしまった。

(エネルギー補給完了ってとこかな? 後はただ、寝たい…)

しかしその願いはJ・Aの開発責任者――時田――の声で破られる。

「それでは試してみますか?
 幸いにして我々は準備万端。
 そちらにはパイロットの少年もいるようだし、機体さえあれば出来るのでしょう?」

ミサト、リツコ両名共に怒り心頭で噴火寸前だったらしく、すぐに時田の挑発に乗った。

セイジは小声でリツコに声を掛ける。

「いいんですか?
 ココで暴走させちゃうって話しだったでしょ?」

「かまわないわ。
 戦闘中に暴走した所で話しは同じよ。」

明らかに目がいっちゃってるリツコに言われ、こりゃもう駄目だと諦める。

ミサトが参号機を空中輸送機で運ばせ、セイジは『外部サポート使用不能時における機体起動システム動作テスト』と銘打った喧嘩に狩りだされるのだった。



「いくら楽勝だからって、バックアップなしって…」

『つべこべ言わない!
 アイツにゃぁ少し礼儀ってもんを教えてやんなきゃ腹の虫が治まんないわ!』

「…ミサトさん。
 これ、館内放送されてるんでしょ?」

会場内から笑いが漏れる。

「時田さん…でしたか?
 すみませんね。」

『君も苦労しているようだね。
 だが、もう君が頑張る必要はなくなる訳だ。 安心したまえ。』

「あ、勘違いしているようなので言わせて貰いますけど…
 俺、ポンコツに負ける気なんてサラサラないですから。
 今から再就職先、考えといた方がいいですよ?」

再び笑いが漏れる会場に対し、時田は大人気なく怒り始める。

『もう準備もいいようだね。
 そろそろ始めましょう。  …皆様にお披露目しましょう。
 ジェット・アローンです。』

格納庫らしいドームが開き、ハンプティー・ダンプティー並みのすんぐりむっくりした手足が蛇腹状の巨体が出て来た。

両手にはパレットライフルのような物が握られている。

が、他に武装はなさそうだ。

更に動きは緩慢で、発令所からの指示も機動戦闘なんて出来そうもないほど遅いものだった。

J・Aが格納庫から出てくると、ゆっくりと歩いてくる。

「阿保らしい…。 付き合ってられないね。
 もっと早く動けないの?」

『まだ検討課題が多くてね。
 実際に稼働させた回数も多くない。
 それより、君は動かさなくていいのかね?』

何故か勝ち誇ったこのような態度で答える時田に、セイジは苦笑する。

どうした物かと思い、少し話をしてやろうと思い立った。

「時田さん。
 俺らの敵って、使徒っていうUMAな訳。
 『まだ造れていない』機関や、『もう少しで解消できる』なんて言い訳聞いてくれない。」

セイジはエヴァの起動をまだしていない。

バッテリー容量的に連続稼働時間は10分。

シンクロを開始し、そのカウントダウンをスタートさせた。

起動完了後、最大加速でJ・Aの後ろに回りこむ。

「だから…」

右腕の付け根に指突を放ち、切断する。

「アンタの玩具なんて…」

同様に左腕付け根を切断。

「お呼びじゃ…」

両足を絡め取っての脚払いをかましてJ・Aを横倒しにする。

「ないんだよ。」

最初の位置に素早く戻り、シンクロを解除して終了する。

「わかった?」

唖然とする会場内。

『流石セイジ君!
 パーフェクトよん♪』

はしゃぐミサトと後ろで地味に嬉しそうに笑うリツコ。

『そ、そんな…』

愕然とする所員。

『機体を立て直せ!
 まだ脚が残ってるだろう!!』

まだ諦めていない時田とJ・A。

立ち上がったJ・Aに、ネルフ陣営の三人は哀れみの目を向け、会場内では失笑が漏れた。

脚がもげればただのダルマみたいなオブジェになる事は誰にも明らかだからだ。

セイジは再び参号機を起動させると、A・Tフィールドを発生させてJ・Aの前進を止める。

「諦めが悪いようだから追加で言っとくけど…
 エヴァに対して手も足も出せないようなポンコツが、エヴァ2機でやっと倒せるような相手に勝てると本気で思ってる?」

フィールドを解き、前進を続けるJ・Aを避けて腕の残骸からパレットライフルの様な物を持つ。

「それからこの武器…
 ちょっと試してみるけど、A・Tフィールドは貫けない。」

そう言って、旋回中のJ・Aに銃口を向けてトリガーを引く。

宣言通りにフィールドに阻まれて一発もJ・Aには当たらない。

「最後に、エヴァの機動力は最初に見せた通りだからあんな鈍亀に捕まりはしない。
 そろそろ終りでいい?」

確認しておきながら返事を待たずに、いまだ旋回中のJ・Aの脚を指突でもぎ取り解体。

J・Aはオブジェに成り下がった。

セイジは参号機を方膝を着かせてエントリープラグから出る。

「あ〜。 さっさと帰ろ…」

セイジの宣言は、LCLでびしょ濡れの為に結局参号機と共に回収される為に延期される事になるのだが…


後書き

幻魔狼「成り行き上、いきなり参号機を出したのに後悔」

セイジ「いや、それよかいきなり俺の日課が…」

レイ「裏世界の住人」

シンジ「マーダーライセンスとか持ってるの?」

幻魔狼「これこれ、マーダーライセンスを持ってても殺人はいかんよ。 殺人は」

セイジ「オイ待て。 俺って殺人やったのか?」

幻魔狼「ん? 正当防衛で無罪放免だよ?」

シンジ「へぇ〜」

レイ「でも、殺人者なのね…」

セイジ「…決定事項?」

幻魔狼「うん」

レイ「手遅れよ」

シンジ「アメリカにドイツ、と海外にいる時間の方が長かったし、仕方ないよ」

セイジ「何が仕方ないんだか…」

幻魔狼「当時の自衛手段がナイフで、現在はG26って設定だよ」

レイ「銃刀法違反…」

幻魔狼「勿論そうだね。 まぁ、ゲンドウさんがどうにかしてくれるだろうけど…」

セイジ「オイ、俺は犯罪者確定なのか?」

幻魔狼「うん」

シンジ「や、やけにあっさりと…」

レイ「きっとこれも伏線なのよ」

幻魔狼「アタリ。 また一つ『セイジ君、死亡フラグ』が成立したよ」

セイジ「あぁ、もうどうにでもしてくれ…」

幻魔狼「ふふふ。 その台詞、後悔するよ…」←ニヤリと笑いつつフェードアウト

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